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「松雪さん!」 「うひゃあっ!」  驚きから呆れ顔へ。その後、きゅっと表情を引き締めた柳の叫びで、駆け出しかけていた松雪が身をのけぞらせ、足を止めた。 「なん……私……名前……嘘……」    「ふはっ!」  びくんっと大きく海老反りになった上半身の角度を保ったまま振り返り、切れ切れに言葉を紡ぐ松雪に、柳が吹き出した。  単語しか発してないが、松雪が言いたいことはバッチリ伝わってきている。   「そりゃ知ってるよ。名前。クラスメイトじゃん」  まるでゾンビでも見たかのように顔を強張らせている松雪に、柳の明るい笑顔がひらめいた。 「嘘。柳くんが私の名前を知ってるわけない。だって私、学校で喋らないし。影薄いし。目立たないように気配を殺して生きてるもん。誰にも……特に皆の人気者の柳くんが私を認識してるわけない」  うわぁぁ……。  相手を見ることなく俯いたまま言葉を連ねた松雪の主張に、柳は笑顔からいったん口を閉じ、声を出さずに内心の呆れ声を唇で形作った。  最後の母音の形で、ぽかんと十秒。
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