【一章】三田優:②

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「傍観は、言わばただ見てるだけ。俺たちは何もしない」  傍観について、身ぶり手振りも加えながら説明をし、三田にわかりやすく伝える姿は、名刺にも書いてあった営業の名にふさわしかった。 『傍観』とは、自殺志願者に寄り添い、彼らの自殺を見届けることが主である。『渡し舟』のスタッフが特別何かをするわけではない。神倉曰く、この志願者が一番多いらしい。自殺はしたいが、あと一歩踏み出せない。きっかけを求めている自殺者は案外多いそうだ。第三者が近くにいてくれるだけで、人は安心して踏み切れるというが、その心理は理解できない。 『幇助』は傍観と似て非なるものらしい。傍観を選択する者と同じように死にたいが自分で命を捨てることが出来ない者が利用する。最後の一歩を自殺志願者ではなく、『渡し舟』が踏み切ってあげよう、というのがこの幇助と呼ばれている。首をくくるまでは自分でできるが、最後の足場を蹴飛ばすことができなかったり、縄を緩く縛ってしまい、じたばたしている最中に解けてしまったり、大声を出してしまったがために、近くの者に勘づかれて一命を取り止めたり、案外、死にたくない心理がそうさせてしまうケースがある。『渡し舟』はそのケースを全て排除し、確実に自殺できるようにプロデュースする。
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