【一章】三田優:②

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『模倣』は他殺に見せかけて自殺する方法である。これが一番少ないケースだと神倉は語るが、理由は単純で警察の捜査で簡単にバレてしまうケースがほとんどだからである。しかし、自殺志願者からしてしみれば、恨みをもった人に罪を擦り付けて死んだのだと思い込んでいるわけだから、これもまた一つの幸せなのかもしれない、とシステム自体は残しているらしい。 『転換』は四つのシステムの中で群を抜いて高額のシステムらしい。最後の自殺者に第二の人生を生きてもらおうという手段である。自殺に見せかけ、当人は死んだことにした上で別の人間として生きる。それがこの転換システムの概要らしい。元は借金トラブルやヤクザ絡みの問題で首が回らない彼らのために、別の生き方を提供したのがきっかけである。今では倒産関係や対人関係など、需要は増えたが、これは自殺に見せかけるための別の人間が必要になる。そのため、『渡し舟』にもかなりの労力とリスクを要する。それが高額料金を掲げている理由だ。  この四つのシステムは同業者も特には変わらない。料金体制が少しばかしの上下があるくらいで、三田が他のところで――と言うのであれば、他の同業者を紹介するのが、この業界の暗黙のルールらしい。しかし、それはごくわずかなケースだ。何故ならば、自殺志願者にとって、相手は誰であっても構わない。縁も所縁もない人だったら誰でもいい、というのが主張としてある。  三田も多少の胡散臭い部分はあるが、死んでしまえば騙されていようが、死人に口なし、後悔もない。相手が誰であってもどうでも良かった。あの時、屋上の縁に足を掛け、最後の一歩が踏み出せなかった。まだこの世に未練なんてあるはずもないのに、生への欲が出てしまった。自分の意識では変えられない本能なのか。事実は自分にしかわからない。その当人がわからないのだから、真相は藪の中だ。だが、このまま生きていては、いつまでたっても恭香に会うことは出来ない。自分にできる彼女への贖罪だと三田は感じていた。
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