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「意外ですね。先輩の見た目なら彼女いてもおかしくないのに」
「見た目を誉められるのはうれしいけど、結局は中身が重要でしょ」
「中身って」
恭香は大きい声で笑った。
「内面とかいろいろ言葉あるでしょうに。え、じゃあ先輩の中身はケダモノだってことですか」
意地悪そうに笑う恭香はとても愛らしかった。肩までしかないのに、飲食業は清潔感が大切ですと、後で申し訳程度に結んだ後ろ髪がぴょこぴょこと揺れる。
三田は店長がいなくて本当に良かったと思った。最近は店を急に開けることが多い店長は、一時間ほど前に、電話がかかってきたかと思うと、「今から出かけてそのまま帰るから、戸締まりだけよろしく」と簡単に言って出ていってしまった。いつもならもう一人厨房か接客がいる時と時間帯を見て出ていくのだが、今回は二人きりだ。時間帯的には、二人でも回せる人数だったため、問題はなかったわけだが、店長からしてみれば、若い男女二人を置いて店を出ていくリスクを考えなかったのだろうか。それとも僕は彼女にとって無害だと思われているのかと考えると虚しくなる。しかし、三田にとってはこれ以上ないチャンスであることには変わりない。僕にもケダモノになる時だってあるんだぞ、と心の中で言い聞かせる。無理をしているのは承知の上で。
「ケダモノなんて……そんなわけないでしょう」
「ですよねえ。じゃあなんで彼女いないんですか? 最近別れちゃったとか?」
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