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翌日、二人は駅前で待ち合わせ、居酒屋の暖簾をくぐった。個室が完備されている店でゆったりと時間を過ごせるのが売りらしく、廊下を歩いても笑い声などは多少漏れるものの、他の店と比べれば、確かに静かな空間だった。
「それでは乾杯しますか」
ジョッキに波なみと注がれた生ビールを持ち、三田は恭香の前に差し出す。
「何に乾杯しますか?」
「何にって、何でもいいんじゃないかな」
「じゃあ、先輩決めてくださいよ」
恭香は早く早く、と小さく揺れながら三田を急かす。
「じゃあ、そうだなあ。二人の出会いに乾杯ってのはどうかな?」
笑いにとってもらっても良かったし、本気が伝わっても構わない。三田は引かれることも覚悟しながら、恐る恐る恭香に問いかける。恭香は、えっ、と小さく反応したが、すぐに「いいじゃないですか。そうしましょう」とジョッキを手にした。
その姿をいじらしく、そして艶かしく感じた三田は、その心情を悟られないように、じゃあ、と恭香と同じくジョッキを持った。
「二人の出会いに乾杯」
「乾杯」
カン、と硝子のぶつかる音が部屋に響く。三田は世界に二人だけしかいないかのような空間にただ身を任せてしまいたいと本気で思った。今まで出会った女性とどこがどう違うかははっきり言って説明できない。もっときれいな女性なんてごまんといるだろうし、内面の好みなんてはっきり言ってしまえば、あやふやで過去の彼女だって統一されていたわけではない。
だけど、三田は相澤恭香に惚れた。理屈ではなく、本能に近いところで、そう確信した。なんとなく、といった言い方は彼女に失礼だろうが、このなんとも言えない込み上げる思いは、愛しかないと確信できた。
「昨日の話の続きなんですけど」
恭香はビールを三割ほど一気に飲むと、昨日の話の続きを話し始めた。
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