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「ほら、そういうとこですよ。先輩の悪いところは優しさしかみせようとしないところ。彼女たちの悪かったところは、先輩の優しさしか見抜けなかったところです」
「何で、そんなこと僕に……」
「私、今そういう人の温もりに敏感な時期なんで」
「なんか困ったことがあるのかい」
これも結局は優しさの押し売りなのではないか、と思ったが、彼女の力になれるのであれば、どうしても話を聞きたかった。
「私の話はいいじゃないですか。女の子にはそういう時期があるんですってことで。あんまり深入りしちゃあ駄目ですよ」
「そうなの? 僕でよければいつでも話を聞くから、気兼ね無く相談してくれ。力になれるかはわからない。だけど、聞き役は慣れているから」
「やっぱり先輩は優しいですね」
恭香は笑った。えくぼが頬に生成され、子供らしさを醸している。
「優しさは罪ですよ」
「それはどっちの意味?」
少し逡巡して、恭香は笑って答えた。
「……良い意味ですよ」
恭香は何か他人には言えない秘密を抱えていることは、三田でも分かった。それでもああやって笑ってくれる恭香を守りたい。そう強く感じずにはいられなかった。秘密が何を指しているのかは、恭香の口から聞かない限り、知ることは出来ない。しかし、大方の検討はつく。男関係なのだろう。いずれはその秘密の小箱を三田の前で開いてくれるかもしれない。否、開いてもらうためにも、今はゆっくりと時間をかけて、恭香の心の氷を溶かしていくことが自分の使命だ。三田はジョッキを思い切り掲げ、天から注ぐように、胃袋へ流し込んだ。
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