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それからというもの、二人で外食をすることに躊躇いはなくなった。恭香の心が少しでも晴れるようにと、三田は積極的に誘いたかったが、がっつきすぎないように自制しながら声を掛けた。傍から見れば、彼女が悩んでいるなんて誰も気付くことは無いだろう。だが、僕はそれを知っている。三田は優越感に浸り、自然と笑みが溢れる。彼女の悩みが外部に漏れないよう、駅や互いの大学からは離れた場所で飲むようにした。これも彼女を慮っての事だ。恭香を独り占めしたい、というまみれた下心を別段否定するつもりも無い。それは男であるならば、ある意味正常な心理だろう。バイトの教育担当という店長の粋な計らいもここで活きてきた。誰が見てるかわからないため、あからさまな態度はとらないように気を付けたが、アイコンタクトで交わす会話は何事にも変えがたいエロシティズムを感じた。
それから数ヵ月の時が流れる。恭香とはこれで五回目のデートだ。郊外にある、地下鉄のホームで恭香を待っていたが、約束の時間になっても彼女は現れなかった。まぁ女性は待たせてなんぼの世界か、と言い聞かせ、地上に併設されているショッピングモールのカフェに入り、彼女に連絡を送る。しかし、彼女からの返信は無い。時計を覗くと、約束の時刻より三十分過ぎていた。
どうしてしまったのだろう。妙な胸騒ぎがする。落ち着かせようとコーヒーを口に運ぶが、味がまったくしない。
携帯が鳴ったのはそんな時だった。
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