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着信画面が表示しているのは『相澤恭香』。良かったと安堵し、通話ボタンを押そうとした直前、指が止まった。意識的ではない。本能だ。誰かが何かを警告している。安堵はしたが、不安はまだ取り払われていない。
カフェの店内のBGMが流れ、客の話し声が飛び交っていたが、三田の耳にはまるで届かない。通話ボタンを押し、耳にすべての神経を集中させる。
「もしもし」
正しく発音できているか自信は無かったが、彼女の声を聞いて早く安心したい。しかし、その期待は裏切られ、電話の声は男の声だった。
「三田……優さんのお電話でよろしいでしょうか」
どこか心を見透かしているような研ぎ澄まされた声だった。威圧的な感覚に近く、三田はたじろいでしまう。
ここからどんな話をしたかは、まるで覚えていない。とにかく相澤恭香にはもう会えないことは警察の男の声で、すぐに悟った。そしてすぐに自殺したとの一報が三田の心をずたずたにへし折った。
焼却炉で焼かれて死んだ恭香の御神体を拝むことは出来なかったが、三田はどの顔で彼女を見たら良いのかわからなかったので、内心ほっとした。彼女を守る、とほざいた男の結果がこれか。こんなもの、僕が殺したようなものじゃないか。
恭香、すまない。面と向かって謝れない僕を許してくれ。
その後、警察からの事情聴取を二回ほど受けた。その時、遺書のコピーを見させてもらった。
やはりストーカーだったか。ストーカーが彼女を追い詰めたのか。こんな惨い死に方を選ばざる負えなくなるまで。恭香はストーカーに殺されたのではないか、と警察に進言もした。しかし、警察の答えはノーだった。その証拠がない、の一点張りで、動く気配は微塵も感じられなかった。
恭香のいなくなった世界は妙に色褪せて、モノクロに感じられる。この世界に生きる意味はあるのか。向こうで彼女は温もりを求めているのではないか、と考えると、いてもたってもいられない。恭香の元へ行こうと自殺を考えるように自然となった。
三田も今、彼女の温もりを求めている。
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