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「出会ってから彼女が死ぬまでのおよそ一年。これが長いとは思えないですが、僕には充分すぎるほどの濃厚な時間だった。僕は彼女に対してなにもすることができなかったのは、結局はその程度の想いだったと言われてしまえばそれまでですし。彼女のすべてを知っているかと言われれば、答えるのに躊躇するでしょう。誕生日とか家族構成くらいといった上辺な話は答えられますが、そんなの誰でも答えられますもんね。そう考えると僕が自殺するに足る想い出があるかと言われると言い淀むのが現実。全部ひっくるめて正直わからないんです。ここだけの話、付き合ってはいたんですが、お互い好きとは言ったことなかったんですよ。だからこそ自殺したいんです。彼女に向こうで再会したらちゃんと向こうで伝えたい」
「三田さんは、死後の世界を信じているんですか」
「信じるとか信じないとか関係ないんですよ。死後の世界があっても無くても、僕が死ぬ時、そう思えて死んだのなら、もうそれは現実になると思います」
「ストーカーの男に復讐しようとは思わないのか」
「そりゃあ憎いし、殺せるなら殺してやりたいですよ。でもそれも死んでしまえば関係なくなるので」
「わかった」
神倉はメモ帳に何やら書き込み、破って三田の前に差し出した。確認すると、住所とメールアドレスが記載されている。少し離れた郊外のホテルの住所らしい。アドレスは誰でも作成できるフリーアドレスだった。
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