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「これは……」
「三田さんが死ぬ場所だよ。日付と代金は追ってそのアドレスから連絡する。自殺の方法は当日まで秘密。想像して逃げ出した前例もあるから。三田さんは指定された日にこの場所へ来てくれればいいよ」
「お金はどうしたらいいでしょう」
「ああ、お金は心配しないで大丈夫。銀行や保険会社とのパイプも持ってるからそこから支払われるらしい。まあ下っ端の俺にはよくわからないシステムさ。他に何か聞きたいことはある?」
「携帯で連絡を取っても大丈夫なんでしょうか? 通信記録とか遺ってるとそこから神倉さんに辿り着く恐れもあると思うんですが」
「それも問題なし。僕らとの通信記録は一切とられない仕組みが構築されています。携帯会社にも繋がりを持ってるので。その代わり、現場では一切の記録を残さないことが義務付けられているので、注意が必要。警察の捜査上に俺たちの影ひとつ残してはいけない」
ペン先を三田の前に突き付け、脅す。しかし表情には笑みが溢れており、どういう心境なのか判断がつかない。
「わ、わかりました」
コーヒーで潤しているのに、喉がからからに渇く。氷が溶けてグラスに水がたまる。それを舐めるように喉に流し込んだ。
「じゃあ、俺はこれで」
神倉は立ちあがり、テーブルに置かれたレシートを手に持った。「いや、僕が」と三田が財布を取り出すが、それもまったく耳に入らない、といった風にレジへと向かってしまった。取り残された三田はふうっ嘆息し、切り破られたメモ帳に視線を落とした。
神倉蒼汰――。彼は一体何者なのだろうか。あまり身だしなみに頓着がないせいか、齢ははっきりとしない。それでも自分と近い年齢層であることは確かだと思っている。そんな二十代の若さで、この業界に携わる。どんな人生を送れば、その進路に携わることになるのだろうか。三田はグラスの氷を一つ口に含みながら、彼の背中を見送った。
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