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「あの世で会えればいいけどね」
「それもまた運命でしょう」
運命という言葉は死んだ後も有効なのだろうか。命を自ら捨てた男に運命という言葉は似合わない気もする。しかし、そんなことは死んでから考えよう。死ねば分かるさ。三田はふうっと一つ、大きな溜め息を吐き、背伸びをした。
「神倉さん。よろしくお願いします」
「了解。短い間だったけど、元気で」
「死ぬ人に言っちゃいけない言葉ですよ」
「だから言ったんだよ」
二人して大声で笑い合った。ようやく視界に色彩が蘇った気がした。最期の視界がこの景色で本当に良かった。三田は神倉自身のことを聞こうと思っていたが、止めることにした。聞くのは野暮だろうし、聞いたところで今の僕には関係の無い話だ、と三田は一人で納得した。今は自分の事で最期を迎えたいという想いもあった。
縄に手を掛ける。どっどっと心臓の鼓動が今にも胸から飛び出しそうだ。首に輪を通し、「お願いします」と声を掛けた。
「了解」
その言葉を聞いた瞬間、体の自重を感じるよりも早く、意識が無くなった。それが死んだと理解することはもう叶わない。ほんの一瞬だった。
そして、三田優は渡し舟に乗って、あの世への船出をあげた。
翌日、名古屋市内の某ホテルから自殺体が発見されるニュースが取り上げられた。テレビや新聞による報道の大きさは、大小様々であったが、それなりに世間へ取り沙汰される事件となった。見出しは各社の工夫が施されていたが、大まかに言えばこうだ。
『女子大生焼死体自殺事件、ストーカー変質者の無責任な自殺』
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