【一章】三田優:①

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 人はいつか死ぬ――――。それは不変の事実だ。誰しもが平等に与えられる、自身の結末だといえよう。それなのに、多くの人々はその死に対して余りにも楽観視している。それがこの世の現実だ。死ぬことを言葉の概念でしか理解していない。巷では毎日誰かを偲ぶニュースがひっきりなしに流れている。それでも当事者を憂うことこそあれど、結局は対岸の火事である。人はいつか死ぬ。でもそれは今日明日の話ではない。だから大丈夫。そういった根拠の無い自信で胸を張って生きているのだ。  三田(みた)はホテルの一室でそんなことを考えながら、自分の座っているベッドから、天井に吊るされている一本のロープに目をやった。ロープの縄は大人の男性の掌で丁度包み込めるほど太く、人ひとりを支えるには十分だった。先端には人の頭がちょうど入る程度の輪が頑丈に結ばれている。三田の身長より少し高めに吊るされたそれは、ホテルの部屋には明らかに不釣り合いな代物だった。  もう一度三田は考える。人はいつか死ぬ。いつか死ぬが、私にとっては、それが今なのだ。私は――――当事者だ。 「覚悟はできたか?」  急に話しかけられた三田はびくっと身体を強張らせた。声の発せられた方向に目を向ける。
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