【二章】但馬善吉①

2/3
前へ
/194ページ
次へ
「大丈夫だよ。行くことは行く。ただ遅くまではいれないかもしれない。すぐ終わりそうか?」  こうして頼ってくれるだけでも先輩冥利につくというものだ。他の先輩たちにはそれが気づかないらしい。近頃の後輩は、先輩たちはもとより会社の人間とのコミュニケーションを図ろうとしない者も多い。だからといって触らぬ神に祟りなし精神なのか、そんな後輩に対し、歯牙にもかけず、同じ対応をとる先輩たちも先輩たちだ。そう考えれば、誰でも気さくに話しかけてくれる竹田は可愛がられる気もするが、先程の言動から「若者はなっとらん。言葉遣いもろくに扱うことができんのか」、と難癖ではないにしろ、あっちを立てればこっちが立たずの状態で、お互いが歩みよりをしない、子供の喧嘩のような冷戦が続いている。  それでも仕事は回るし、会社は成り立っているのだから不思議なものだと但馬はげんなりしながら思っている。 「そうですか。ちゃんと話したかったので、時間を気にはしたくなかったんですけど」  竹田は本当に落胆した様子で、深い溜め息を吐いた。余程切羽詰まった話なのか。 「なんだ、借金とかそういうことか」  但馬は小声で耳打ちをする。     
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加