20人が本棚に入れています
本棚に追加
【二章】但馬善吉②
仕事が終わり、竹田の席を覗く。ノートパソコンは閉じてあり、席にはいない。竹田はどうやらもう店に向かったようだった。但馬は携帯を開くと、竹田からメールの着信が届いていた。
「いつもの店で待っています」
恋愛経験豊富な、気取った女が手玉にとっている男に向けるような図々しさがあったが、いつものことなので、気にしない。しかしながら、大の大人が先輩に使っているのだが、第三者に見られたら勘違いされることこの上ない文面のため、すぐに携帯を閉じ、荷物を整えて、外へ出た。
向かった先は駅の端に追いやられたかのように、ひっそりと開いている居酒屋だった。そのため、客足は芳しくないが、個室も完備されており、静かに酒を飲みたい但馬にはうってつけの場所だ。このままつぶれない程度に賑わってくれればと思うほどに但馬はこの店の虜になっていた。
元々は、竹田が見つけて誘ってくれたのがきっかけだった。僕の自慢は、ハムカツと野菜の串焼きですね、と自分が作っているかのような口ぶりで、但馬の希望を聞く間もなく、次々と注文した料理は、竹田が自慢するだけのことはあるほどに旨かった。箸が進むのはもちろん、酒もぐいぐい進ませる料理は初めて出会った。酒も品揃えが豊富で但馬の好きな果実酒も多く取り寄せているのも好印象だった。
最初のコメントを投稿しよう!