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店内に入ると、アルバイトと思われる若い男が「っしゃーせ」と景気のよい声をあげた。いつもなら店長がいる時間なのだが、どこに出掛けているのか、今日は不在らしい。店員にビールを注文して、竹田のいる店の最奥の個室へと向かう。
個室の前に立ち、引き戸を開けようと、手を添えたところで、但馬はピタリと止まった。何やら声が聞こえたからだ。耳を澄ますと、微かだが確かに話し声が聞こえる。子供たちがいたずらを画策するような好奇心に満ちた様子はなく、どちらかと言えば大人たちが隠蔽工作に勤しむような薄暗い空気を察した。竹田は特に誰かを呼ぶとは言っていなかった。それにこの店は竹田と但馬が二人で飲む時に使用するもので、第三者が介入したことは今までなかった。
「竹田、入るぞ」
わざと少し大きめの声で、引き戸の向こうにいる竹田に声をかける。
「あ、はい。待ってました」
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