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え、と但馬は少し狼狽する。何を問われているのかわからなかった。優勢劣勢など深くは考えていなかったが、立場が逆転したことを肌で感じた。
「あなたの名前――聞いてませんけど」
「あ……すいません。但馬です。但馬善吉」
「善吉」
忘れないように繰り返しているようでも、古くさい名前に珍しがっているようでもあった。
くしゃくしゃの髪から覗く、不穏な香りは但馬の心をどんよりと重くする。声からして二十代だと認識は出来るが、独特な雰囲気から判別は難しい。
「よろしくお願いします」
差し出してきた右手を拒む理由も無いため、但馬も右手を差し出し、握手を交わす。
ところで、と但馬は話を切り替えた。彼のペースに呑まれてはいけない、と本能的に察する。
「竹田、状況を説明してくれ」
竹田は部屋の隅でちょこんと座って、こちらの様子を眺めていた。こちらがテレビの向こう側であるかような観賞に近い。
「いやあ、説明したいのはやまやまなんですけど。何をどう説明したら良いやら」
頬を掻きながら困ったように返す。何を説明すればいいでしょう? と、こちらが困ることを言うのは目に見えていた。
「何を説明すればいいでしょう?」
「いいから、わかる範囲で説明しろ。何故、店長がいる? この男――神倉さんは何しに来た? 今日、お前はなんのために俺を呼んだ? この二人はその用件に関係しているのか?」
「いっぺんに聞かれても困りますよお」
「駄々をこねるな。なら、俺は帰るぞ」
「いや、それはダメです。まだ話が前に進んでいません」
即答だった。当たり前じゃないですか、とこちらが我儘を通そうとしているような口振りで、但馬を諭そうとする。
「わかりました。順を追って、説明しましょう」
はじめからそれを望んでいるのに、と出かかった言葉を無理やり飲み込んだ。
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