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【二章】但馬善吉③
竹田が秋永に相談を持ちかけられたのは二週間ほど前のことだった。普段から秋永の店に通っていた竹田は、持ち前の明るさや人懐こさも相俟って、すぐに秋永とも仲良くなった。元々秋永自身も、ひょうきんな男で、誰とでも分け隔てなく接することのできる男だったからとも言える。そんな軽い付き合いをしていた認識だった竹田は、秋永の意外な言葉に少なからず面食らった。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとここじゃなんだから、外で飲もう」
普段の秋永とは全く想像できないあたふたした姿に、余程の切羽詰まった何かが起きたことは想像に難くなかった。
「でも、お店は大丈夫なんですか」
いくらなんでも店長が途中でいなくなると他の店員に示しがつかないのでは、と思った。もし、僕がこんなことしようものなら、但馬さんに叱られるだろうな、とも。但馬さんにはいつもそういった細かいところにまで目を向けてもらってとても助かっている、と秋永そっちのけで、しみじみと思う。
「大丈夫、大丈夫。三田くんがいるから。最初は入学したての大学生でお金が欲しいだろうから、とおまけのつもりでバイトに採用したけど、もうこっちのほうがおまけみたいなもんになっちゃったよ」
カウンターから厨房を覗くと、料理を作る男の姿が二人見える。一人がてきぱきと指示を出しながら、自分も包丁の手を休めない。彼が厨房を回しているらしい。店内にはもう一人入ったばかりの女の店員もいるが、まだ包丁を握らせてもらえないのか、ずっと接客をしていた。
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