【一章】三田優:②

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 結局三田は神倉の後を追い、二十四時間稼働のファミリーレストランに入ってボックス席に着いた。チェーン店で、ドリンクバーも設置されているためか、店内はこの時間帯でもかなりの賑わいを見せていた。比較的若い男女のグループが多い。大学生のグループだろうか、アルコールが入っているのか声量がかなり大きい。 「あれはアルコールじゃなくて、深夜特有のアドレナリンというか、自己主張の一つなんじゃないかな。俺はここにいるぞ、みたいな。まぁおかげでこうやって気兼ねなく自殺という不粋な会話も出来るというわけ」 「は、はぁ……」  神倉は席に着くとウェイターにドリンクバーとフライドポテトを頼んだ。少しは腹に入れないと、予期せぬとこで死んじゃうかも、と冗談にもならないことを口にしたが、三田は無視し、ドリンクバーのために席を立った。ドリンクバーは若者で列ができており、二人で最後尾に並ぶ。順番待ちの間、お互いが簡単に自己紹介をした。その後は、先程の自殺の話とはまったく関係のない雑談を神倉が主となって繰り返し、テーブルに戻っても続いた。  三田は先程の名刺をテーブル下で財布から取り出した。人生相談センターに『渡し舟』という団体名。察するに、賑やかで活気に溢れる店内に、取り留めのない雑談は自殺を止めようと、自分の気持ちを少しでも紛らわそうとしているのではないか。諭されているのではないか。そんな疑心暗鬼に包まれた。それならとんだお門違いであるし、そもそもそんなことを自分は望んでいない。 「あの……こういうのは大丈夫なんで。結局綺麗事を並べて終わるだけの空しい時間を過ごすだけです。こういった団体には相談したことがないと思っているかもしれませんが、相談する気も起きないくらい、周りのみんなは口を揃えて言うんですよ。『大丈夫。いずれ良いことあるさ』ってね。バカの一つ覚えみたいに、誰しもが」 「そりゃあ、大抵の人は君の自殺を止めようとする善良な方々ばかりだからね」  神倉は当然と言わんばかりに、大きく頷いてみせた。 「あなたは違うと言いたげですね」 「まぁ事実、全く違うからね。僕らは人生相談センターなんて名を謳っちゃあいるが、そもそもこの名前に意味なんてない。もちろん、会社としての実態はあるし、文字通りの活動も行っている。ただ僕らの本質は『渡し舟』にある」
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