幕末の白い虎達

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 そこで先頭を歩いていた隊士は、自分の眼に飛び込んで来た風景に言葉を失った。しかし、すぐに我に返り大声をあげる。 「お、お城が…お城が燃えてる…。お城が燃えているーーー!!!」  飯森山から望む会津若松城のその姿が、炎に包まれていたのだ。 「なんだとッ!?」 「あぁ…!」 「……お城が、俺達のお城が燃えている…」 「会津が…、会津が負けたんだ」 「夢だ、俺達は夢を見ているんだ」 「畜生! 畜生畜生畜生!!! ここまで…ここまで来たのに……!」  全員が膝から崩れ落ち、地面をバンバンと何回も拳で叩きながら大粒の涙を流す。  そしてしばらくした後、儀三郎が静かに立ち上がり 「皆、最後は会津の武士として…潔く散ろうじゃないか」  背中を丸めうずくまる隊士達に向かって優しく言った。 「…そう…だな。儀三郎の言う通りだ。皆で逝こう!」  全員が儀三郎の言葉に賛同した。その時 「手傷が厳しいので御先に御免!!」  一番傷の深かった隊士が躊躇する事なく腹を切った。 「見事だ、見事だぞ! 後に続け! 遅れをとるな!!」  儀三郎は倒れ行く隊士に駆け寄り、脇差を抜き自らの腹を突いた。その儀三郎に続く様に全員が脇差を抜く。  腹を切り、喉を突き、お互いに斬り合い…… 全員がその場に崩れ落ちた。 「…生まれ変わっても又…会津で会おうな……。皆……死に遅れるなよ……」  全員が倒れるのを見届けた儀三郎はそこで意識を失った。  しかし 「オネエは切腹はしないの」  その場に1人だけ、自害をせずに立っていた者がいた。  それはもちろんの事、オネエだった。 「皆楽しかったわよ」  倒れている隊士達をしばらく眺めていた後、小さく呟きどこかへと歩きだし、そしてオネエは姿を消した。  この時、士中二番隊の少年達が見た噴煙は、会津の城周辺の武家屋敷が燃える炎から生み出されたもので、まだ会津の城は落とされてはいなかった。  それは元号が明治へと変わるわずか16日前の、余りにも哀し過ぎる出来事であった。  その数年後、遊郭にて不気味で大柄な女性? が働いているのを見た者がいるとかいないとか…
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