ソーダ味の涙

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 椅子をひく音がする。「買いもの行ってくるわね、悟くんよろしく」という母の声のする方に、瑞希は手を振った。父はこれ以上仕事が休めなくて今朝帰っていった。  正直、離れている方がありがたい。近くにいると見えなくても心配の視線が刺さる。  悟は「おかあさん、まかせてー」などの呑気な返事をしている。だが、このマイペースな性格がいまはいい。悟にも心配はかけてるだろうけど、余計な気遣いをしないところがいまの瑞希にはありがたかった。  すまなさそうに謝る野球部の顧問も、瑞希を刺激しないように言葉を選んでいる担任の先生にも、無念さを隠しきれていない顧問と部長にも、みんなに腹が立つ。そして一番腹が立つのは、見舞いに来てくれた周りの人をそんな風に思う自分自身だ。  見舞いに持ってきてくれたソーダ味のガリガリ君を頬張っていると、悟が言った。 「今日、休部届け出してきたんだ」 「はっ?」 「ちょっとやりたいことができてさ」 「んな……何言ってんだお前」  表情が見えなくても、悟がふざけていないことくらいは分かる。それくらいには長い付き合いだ。  悟は黙っている。どんな顔をしているのだろう。
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