ソーダ味の涙

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「そんで……やりたいことって、何?」 「まだ言えない。もう少ししたら話すよ」 「もう少しっていつだよ」  いままで悟が瑞希に隠しごとをしたことはなかった。少なくとも、瑞希が知る限り。 「……瑞希はさ、もう走らないの?」 「えっ」  なんて無神経な、と普通は思うんだろうが、瑞希にはむしろ目から鱗だった。  身体は元気だ。なのにどうしていいか分からなかった。真っ黒な視界の先に希望なんて見いだせなかった。  でも、身体は健在なのだ。一番の遊び道具である自分の両脚はいまも当たり前のように動く。  足先をグーパーさせてみる。膝の裏がぶるっと震える。  怖くて一歩が踏み出せないだけで、本当は走りたくてたまらないのだ。瑞希にとって走ることは食事をしたりトイレに行ったりするのと同じくらい日常的なことだった。悟も同じだからこそ、瑞希の気持ちが分かったのかもしれない。 「……アタマの検査終わったら、筋トレくらいはしてみるよ」 「うん、そりゃあいい」  声色で悟の表情が分かる。目をぱっちりさせ、唇をくっつけたまま、口角と頬を上げた満足気な顔。  母が戻ってくると、悟は「明日またくるー」と言って帰っていった。
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