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沈黙が流れる。こんな状況でも気まずくないのは、共に過ごした年月のせいなのか、せわしなく砂浜を横断する潮風のせいなのか。
「……あのさ」
「何だよ?」
「何で春咲に行ったのかって聞いたでしょ?」
「ああ……聞いたな」
「俺はさ、瑞希と走っていたいんだよ」
「はっ?」
「だから、別に強豪に行きたかったわけじゃなくて、瑞希と同じ高校に行きたかったんだよ」
「そ、そうか」
はあ。
もう怒る気力も湧かなかった。昔からそうだ。瑞希が誘えば走るし、瑞希とだったら走る。でも、悟は瑞希と違って走りの虫ではないのだ。
立ち上がろうと思ったタイミングで、悟の手が添えられる。
「これ、持って」
そう言って悟に渡されたものを手に取ると、柔らかくて細長い何かだった。
「……ひも?」
「うん。”きずな”って言うんだって。輪っかになってて、瑞希と俺で持つんだ」
「持ってどうするんだよ」
「走るんだよ。公道を!」
その日から、瑞希と悟の併走の練習が始まった。
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