突然のこと

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「青井ー! 古川は今日も遅刻か?」 「はい、そうみたいです、部長」 「ったく、アイツはまったく。それでいて速ぇからむかつく」 「ほんと、そうすね」  春咲高校陸上部の2年の長距離エース、古川悟は毎日部活に遅れてくる。だが、長距離においては高校陸上界で知らない人はいないほどの実力者でもある。  青井瑞希は悟の幼馴染で、高校では寮まで相部屋という腐れ縁だ。 「1年のくせに去年の校内マラソン1位だかんなー」 「ま、今年は俺が勝つんで。見ててください!」 「お前も十分むかつく」  陸上の強豪校に入るために上京してきて1年が経った。もう潮の香りはしないが、二人いつまでも走っていることには変わりない。  筋トレが終わったから、そろそろ悟がやってくる頃だ。 「瑞希ー、次は外周?」 「その神経の図太さを1年貫き通せる悟はすごいな」 「えーそれ褒めてる? それよりさ、走り行こうよ」 「行くけどさ」  前を走る悟を追いかける。この構図は子どもの頃から変わらない。12kmを超えてくるとスタミナで勝る瑞希に勝ち目が出てくるのだが、長距離走ではまだ敵わない。去年の校内マラソン(男子8km)では、のこり500mを切ったところでゴールテープをきる悟の背中が見えていた。 「くそ、今日も負けた」 「あはは、外周じゃ負けないよ」 「お前さ、なんで春咲来たんだよ。練習もろくにしねぇし」 「え、そりゃ走るの好きだからじゃん?」  悟は楽しそうにそう言って、グラウンドでの練習もクールダウンもせずに、今日も勝手に帰っていった。
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