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「俺たちも来週の記録会で勝負だね」
「10000mな。ほかは勝てる気しねえ」
「10000mも負けないよー」
「そんな高括ってると、そのうち俺に足元救われんぞ」
「ははは」
年々タイム差縮まってることこいつ分かってんのかよ、と思いながら瑞希は制服の上着を脱いだ。汗臭い部室には午後練の余韻が残っている。
いつか公式戦で悟に追いつきたいと思う気持ちはもちろんある。だけど、圧倒的な才能を持て余している悟にイライラするのもまた本心だった。悟が本気を出せばきっと努力では埋まらない差がある。それを分かっていて手を抜いている悟の気持ちが分からない。
「瑞希危ないっ!!」
悟の叫ぶ声と共に、バリンという大きな音が頭上から聞こえた。反射的に上を見た途端、前頭部に何かが当たる。固い砂が降ってきて、目に刺さった。
「う、うう……」
「瑞希、動かないで。そこにいて! 先生呼んでくる」
目は痛くて開けられない。走っていく悟の足音を拾う耳がだんだんと聞こえなくなっていく。頭が燃えるように熱く、それなのに意識はだんだんと遠のいていった。
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