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隣の彼
次にとまる駅の名前がアナウンスで流れた。
その駅の名前を聞いて、ドア付近に立っていた高校生二人が顔を見合わせる。男の子がおりる駅の名前だ。女の子はちょっと拗ねたような表情で男の子の制服の裾を掴んだ。ちょっと困ったように男の子は笑ってみせたが、口元の笑みが隠せない。可愛いなと素直に思う。
同じ駅の名前を聞いて、同じようなことを思って、顔を見合わせる。
たったそれだけのことだが、男の子は何だか気持ちが通じ合ってるみたいで幸せな瞬間だなといつも思う。もっと一緒にいたいし、話していたいし、顔を見ていたい。
そんなこと恥ずかしくて目の前の彼女には言えないけれど。
突然女の子がフフフと小さく笑う。
こんなふうにコロコロ表情が変わるところも可愛い。
「校章、曲がってるよ」
「え? ほんと?」
女の子がじっとしていてねと言いながら、黒い学ランの襟に小さく鎮座する校章のピンに細い指を添えて、真っ直ぐになおす。
よし、と確認してから男の子の方を見上げる。この角度から見る彼女もとても可愛い。
窓の外の景色の流れがゆっくりになる。夕日のせいか女の子の顔が赤い。
「じゃ、また明日」
「また明日ね」
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