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私は三好堂の脇に自転車を止めた。
そして古い錆びて傾いた看板を見上げた。
「三好堂」日に焼けて薄くなった文字は辛うじて、そこが三好堂である事を主張していた。
だけど何処にも「あんぱん日和」なんて言葉は書いていない。
私は意を決して建付けの悪い木の戸を開けた。
「いらっしゃい…」
店の中には腰の曲がったおばあさんが、白い頭巾を頭に巻いて立っていた。
三好堂…。
何度か子供の頃に来た記憶があった。
けど、一人で来たのは初めて。
今のパン屋さんみたいに自分でトレイに欲しいパンを乗せてレジに持って行くんじゃなくて、木製のガラスケースの中のパンを入れてもらう。
そんな古いパン屋さん。
木製のガラスケースはもうすり減って角が無く、独特の光沢があった。
ガラスケースの中には、あんぱん、クリームパン、ジャムパン、コッペパン。そのコッペパンにクリームを挟んだモノ。
そんな素朴なパンだけが並んでいた。
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