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もうすぐ出ていく部屋を今更ここまで綺麗にする必要がどこにある。もし、傷でもつけて退去時に補修代でも請求されたら、それこそバカらしいと思う自分と、ここまでやったんだから、こんな半端で辞めれるかと思う自分が両方いて、戦うと言うよりは、それぞれが出たり入ったりしてるような感じだった。 重曹を追加で振りかけたり、重曹ごと擦ってみたりしながら、結局はカードで刮ぎ落とす感じで、どうにか全ての水垢を取り除いた。 やったぁと心の中で呟きながら立ち上がり、痛くなった腰をトントンと軽く叩く。浴室の小さな磨りガラスが赤色に染まっている。 ついさっきまで穏やかな青空だったのに、いつのまにか夕焼け空に変わっていた。薄暗くなった脱衣室に佇みながら、何か心の中に得たものがある事を感じていた。 パチリと電気を付ければ、いつもの浴室が目に入る。 しかし、1時間ほど前に見た光景と同じようで、何かが違っていて、少しだけ今の方が明るく感じる。 自然光と電球の明かりの違いだけではなかった。いま自分が磨きあげた、ほんの一部分の汚れが落ちたことによって、浴室全体の印象が変わったのだ。 それは、ほんの小さな、浴室全体からすれば1%にも満たない範囲だったが、そこが変わるだけでこんなにも影響を与えるのかと少し驚いた。 彼女とこの部屋で過ごした半年も、俺が50年生きれば俺の人生の1パーセント。     
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