ニードルと赤いハイヒール

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ニードルと赤いハイヒール

 か細い針が降っている。柔こい針は舗道の地面に当たって潰れてへしゃぐれた。  空は鼠色、人もネズミ、傘をさし、足早に帰路に着く人々。  皆が俯くこの時間。私は初めて顔を上げることができる。  柔こい針は私を刺すが怖くも痛くもない。それなのになぜ皆針に怯えている。嫌な顔をする。潰れてひっつく足を見る。  こんなに楽しいのに、私は猫のように自由なのに。 「あなた、平気なの」  女が私に己の傘を差し出した。 「平気さ。むしろ元気になった」  女は眉を寄せ、刺された私の体を見る。 「わたしは無理よ。あなたみたいに生きられない」  女は再び傘の下に隠れて、さしてない手で左腕をさする。 「今さっき少し刺されただけなのにもう怖い」  女は怯え、小走りで去っていく。    どうしてさ、なんでだい。皆傘に隠れ俯いている。だれも私たちのことなんて見ていないってのに、どうして傘を捨てないんだい。こんなにも針は柔こく、優しいっていうのに。    私は前を向いて歩く、顔に笑みを浮かべステップ踏んで。
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