1人が本棚に入れています
本棚に追加
ニードルと赤いハイヒール
か細い針が降っている。柔こい針は舗道の地面に当たって潰れてへしゃぐれた。
空は鼠色、人もネズミ、傘をさし、足早に帰路に着く人々。
皆が俯くこの時間。私は初めて顔を上げることができる。
柔こい針は私を刺すが怖くも痛くもない。それなのになぜ皆針に怯えている。嫌な顔をする。潰れてひっつく足を見る。
こんなに楽しいのに、私は猫のように自由なのに。
「あなた、平気なの」
女が私に己の傘を差し出した。
「平気さ。むしろ元気になった」
女は眉を寄せ、刺された私の体を見る。
「わたしは無理よ。あなたみたいに生きられない」
女は再び傘の下に隠れて、さしてない手で左腕をさする。
「今さっき少し刺されただけなのにもう怖い」
女は怯え、小走りで去っていく。
どうしてさ、なんでだい。皆傘に隠れ俯いている。だれも私たちのことなんて見ていないってのに、どうして傘を捨てないんだい。こんなにも針は柔こく、優しいっていうのに。
私は前を向いて歩く、顔に笑みを浮かべステップ踏んで。
最初のコメントを投稿しよう!