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「創ちゃん、具合悪いなら、少し寝ていてよ。村の話、またあとでしよう?」
……頭も痛むし、今だけは伊月の意見に乗ることにしよう。
恐ろしい程に穏やかに微笑む幼馴染の顔に安心してしまう自分がいることに、若干の歯がゆさを覚える。だが、体は素直だった。重たいまぶたは勝手に閉まり、俺の意識は、どこかへ行ってしまった。
目を覚ますと、後頭部の痛みは治まっていた。身体を起こすと、掛け布団が引っ張られていることに気付く。目を向けた先には、幼馴染の頭と両腕。寝てしまったのだろうか。肩を揺すると目を覚ましたから、浅い眠りだったのだろう。
「創ちゃん……。具合、良くなったの?」
「ああ、もう大丈夫。勝手に寝て悪かった、迷惑かけただろうし……」
そう言うと、伊月は立ち上がり、腕を虚空へ伸ばした。
「いーや、全然。珍しいものが見れて満足だよ」
人あたりが良さそうな、妙に弾んだ柔らかな声。これから人が死ぬ場所に行く話をするというのに。相変わらず、恐ろしい奴だ。
「で、なんで俺の家にいたんだ? 何か用事があったんだろう?」
わざと問いかける。
「そんなの決まってるじゃん、創ちゃん。明日行く連山村のことだよ」
やはり、俺の冗談は冗談として受け止められていないようであった。俺としては毎日が暇つぶし探しだから問題ないが、伊月はどうなのだろう。
「……明日で、いいのか? 部活とか、急に休んだら迷惑かけるんじゃないのか?」
そう問いかけると、伊月はきょとんと首を傾げた。
「え、どうして? 周りに迷惑かかるとかかからないとか、僕に関係なくない?」
……ほら、こういうところ。無垢純粋と見せかけて、歪んでいる。自己中心的。だが、彼はそんな面を俺以外に見せない。さらに謎だ。
「まあ、わかった。じゃあ、明日でいいんだな?」
彼は嬉しそうに微笑み、頷いた。
「もちろんだよ。創ちゃんと二人きりの旅行、楽しみだなあ」
「旅行って……。事件を解決しに行くんじゃなかったのか?」
呆れて溜息が出てしまう。伊月は首を振り、苦笑混じりに否定する。
「いやいや、勿論、二人で解決するつもりだよ? でもさ、創ちゃん田舎とか静かなところ、結構好きでしょ? 普通にいいところだし、一度一緒に行きたかったんだよね」
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