旅行のついでに。

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 目を覚ます。視界には白い天井。薬品とフローリングの匂いがする。同学年くらいの子供の、威勢のいい掛け声が耳に入る。 「……俺、何してたんだっけ」 ふと、思ったことを呟く。  確か、今日がテニス部の地区大会だったから、伊月(いつき)の試合を見に近隣の中学に行って、それで……。ここからの記憶がない。  起き上がるのがなぜだか面倒に感じて、首だけで辺りを見回す。俺が寝ているベッドはカーテンによって囲まれており、この部屋の様子は確認できなかった。  が、一つだけ分かったことがある。ここは保健室だと思うが、俺が通っている中学の保健室ではない、ということだ。天井の色も違うし、シーツの質感が、若干違う。  ということは、このカーテンを開けた先に人がいるとしたら、確実に他人。気まずすぎて、羞恥と緊張で再度寝てしまう気しかしない。  ……仕方無い。伊月が来るのを待とう。来たら起こしてくれるだろうから、もう少し寝ても問題ない、よな。  すうっと瞼を閉じる。いざ、夢の世界へ……。 「失礼します。城山(きやま)中学の│立白(たじろ)です。│聲蛇(こえだ)くんが倒れたと伺ったのですが……」 待って早すぎる一睡もできてない。大して眠たいというわけじゃないが、せめて、五分くらいは眠りたかった。うたた寝くらいが丁度いい。 「ああ、気絶しちゃった子ね。窓際のベッドにいるはずですよ。じゃ、私はこれで」 「わかりました。わざわざどうも」 聞きなれない女性の声。保険の先生、なのだろうか。何はともあれ、去ってくれたのは好都合。  そして、どうやらこのベッドは窓際に位置していたらしい。道理で掛け声がよく聞こえるわけだ。  カーテンが勢いよく開けられ、見慣れた青年の顔が映る。なぜコイツの顔はこんなに整っているのに、俺は童顔なのだろうか。おまけに勉強も運動もできる。天は二物を与えず、だって? それはきっと嘘だな。 「創ちゃん、大丈夫? 野球部のボールが後頭部に当たって気絶したって聞いたんだけど」 「……あ、後頭部か。道理で記憶がないわけだな。それと、その創ちゃん呼び、前からやめろって言ってるだろ」 いつの間にか差し伸べられていた手を掴み、身体を起こす。伊月は幼馴染で、家も真正面と、非常に近い。今はもう十四歳で、中二の夏休み。中一の終わり頃、同じクラスの興味があった女子に言われた一言。
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