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「中学生なのに、まだ創ちゃんって呼ばれてるの、なんかダサいねえ、創太くん?」
からかい混じりに言われたこの一言で、心がポッキリ折れた。今思えば、彼女は伊月に興味があったようだし、付き合える可能性など皆無だったわけだが。
それでも、なぜだか創ちゃんと呼ばれるのが気に食わない。今年は伊月と同じクラスで、彼女は隣の一組。彼女との絡みが減った分、伊月との絡みが増えた。嫌ではないが、少し残念だった。
「ぇえ、別によくない? それに、他に呼び方思いつかないし」
「普通に創太って呼べばいいだろ、伊月」
そう答えると、嫌そうに頬を膨らませて睨んできた。
「前は、創ちゃんも僕のこと、いっくんって呼んでくれてたのに……」
「……それ、小四の頃までの話だろ」
そういえば、その時も好意を抱いていた女子が伊月が好きで、
「伊月くんに気安く接するとか、生意気っ!」
と言われて、やめたんだっけか。
「……ほんと、創ちゃんって趣味悪いよね。あんな自意識過剰な女子たち好きになって、小言言われたくらいで、自分のこと変えちゃってさ」
コイツ、なんで知ってるんだ。言った覚えはないし。二つとも呼び出されて人目のつかないところで言われたし……。いや、呼び出されたからこそ目立つ、のか?
「って、なんでお前が知ってるんだよ、伊月」
少し怒り気味に言うと、伊月はなぜだか目を細め、相変わらずの爽やかボイスで告げた。
「いいのかな~? そんなに反抗するなら、昨日見つけた未解決の面白そうな事件、教えないけど?」
「え、ほんと? 宿題すぐ終わったし、最近暇してたんだよ。それを先に言えよな……」
きっと、さっきまでの彼の応答は、ここへ繋げるためにわざと行っていたのだろう。口に出して指摘するつもりはないが、つくづく恐ろしい奴だ、全く。
「うん、帰り道長いし、歩きながら教えるね」
伊月は俺の少ない荷物を投げつけ、先に部屋を出ていってしまった。
荷物を背負い、靴下では滑りやすい、綺麗に磨かれた廊下を幾度も転びそうになりながらも走る。
伊月は、時々歩く速度が妙に速いから、帰宅部の俺は急ぎ足で行かないと追いつかない。並んで歩くときは普通だから、俺が走って追いかけてくるのを楽しんでいるんだろう、きっと。
人の動きを見て楽しむような嫌な奴だが、なんだかんだで嫌いになれないのが難点だ。
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