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「醜い考えは、お辞めなさい。閻魔様に、舌を抜かれてしまいますよ」
美しい、女体の仏様の言葉に、若い男は怒り狂い、神社を燃やそうとした。それを止めたのは、他でも無い、聡明な少女。
ただ、幼かったからか、男に返り討ちにされ、命を落とした。その時、地が割れ、貪欲な若い男を飲み込むと、スッと口を閉じた。
「彼は、閻魔様に怒られることでしょう。その少女は、私が天へ連れてゆきましょう」
そう言うと、仏様は聡明な少女を連れて、天へ昇って行ったそうな。
その後、村は平穏な時を過ごした。だが、とある年。死んだはずの若い男が、桜紅神社の鳥居に、異形の容姿と笑みを称えて、座っていた。それを見た者は原因不明の病で命を落としていった。村人たちは仏様の再来を願った。……何日経っても、現れることは無かった。
ある者が、生贄を出そうと言った。若い少女が選ばれた。
「この子供が、生贄だ」
そう言って拘束された少女を差し出すと、若い男は不気味に笑い、去っていった。
彼は人懐っこい顔で、誰にでも優しかった。その分、内に秘めた闇が凄まじかったのだろう。
その年から、毎年若い男は鬼のような姿で現れ、生贄を一人差し出されては、連れて帰ってを繰り返した。この日は、後に『生贄祭』と呼ばれるようになった。
不思議と、連山村にはそれ以来、不作という時期はなくなった。それどころか、山水から大きな川ができ、魚も釣れるようになった。
そして今から二年前、生贄祭も廃止されて七十年余りが立った頃。連山村で事件が起きた。
生贄祭が夏祭りのような行事になり、子供達が屋台巡りを楽しんでいる夕刻。畑仕事が終った老父は、孫にお駄賃でもあげようかと祭り会場に向かう途中、川に目を疑うようなものが流れていたという。それは魚でもなく、木の実でもない。 勿論、小動物でもない。川を仄かに赤く染めながら流れに沿って下る、それは。
……女性の、腕だったそうだ。老父は腰を抜かして、交番へと走った。畑仕事で痛めた腰など意に返さず、ただ走った。それはたちまち村中に広まり、遺体はどこだと皆が探した。
だが、遺体なんてなかった。ここ最近、若い女性がこの村で死んだなんてことが無いことくらい、村人たちは知っていた。そこで、腕を見つけた老父が言った。
「生贄を七十年も出さなかったから、鬼が怒って過去の生贄の腕を寄こしてきたのかも知れん」
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