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一通り話し終わったのか、伊月は肩で軽く呼吸し、俺の方に目線を送ってきた。心底楽しそうな顔。
「……興味がわかないでもない。けど、田舎で山が多いってことは、ここから結構遠いような気がするんだが」
「あ、それなら問題ないよ。連山村なら、僕一人でよく行ってるし」
立ち入り禁止区域に指定されているとか言ってなかったか、伊月。
矛盾しているぞ、と言うのは、やめておいた。
「それとね、一応立ち入り禁止区域にはなってるけど、お巡りさんに聞いたら、立白くんと聲蛇くんなら構わない、だって」
顔に出ていたのか、伊月は俺の疑問を軽々と解決してみせた。
「そうか。今夏休みだし、明日にでも行くか?」
軽い冗談。伊月はテニス部で、かなり強い。いくら長期間の休みといえど、部活で今後の予定は埋まっているはずだ。
「え、いいの!?」
……うっそだろ。なんで喜んでるんだ。
「い、いや待て伊月。部活あるだろ? 多分」
「安心してよ創ちゃん、休めば問題ないからっ!」
「いやそれ絶対問題あるだろ」
ツッコミを入れたところで、もう家が目前にあることに気付いた。いつの間にか、家周辺に来ていたようだ。伊月の話に夢中で気付かなかった。
「じゃ、俺こっちだから」
「うん、じゃあ、あとはラインでね、創ちゃん」
俺は右に、伊月は左に。双方から見ても真正面の一軒家に、俺たちは足を踏み入れた。
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光源は窓から射し込む夕日だけ。時計の針は午後五時四十四分を指し示している。夏は日が長くて電気代が少々減るが、その分暑い。
優秀な姉は、俺が小四の頃、十四歳で自殺。いじめられていたらしい。父は、それで心を病んで後追い自殺。母は、二人が死んだことにより、精神崩壊。数年前から、精神病院に入院。
結果、今は俺一人でやりくりしている。いや、親戚の人とか、近所の人がおすそ分けとかしてくれることもあるけども。金銭面は、伊月と探偵をやることで、どうにかしている。あと、小説。趣味ではあるが、一応売れたり売れなかったり。
階段を上り、窓際の一室の扉を叩く。
「姉さん、入るよ」
もう、いないのにね。
聞こえないはずの幻聴は、胸を締め付ける。かつては綺麗に整えられ、常に優しい声が聞こえたはずの空間は、静まり返っている。
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