0人が本棚に入れています
本棚に追加
まあ、どうせ考えても変わらない。早めに風呂上がって、原稿の続きでも書こう。浴槽から出ようと片足を出したら、地に着いた瞬間に滑って転んだ。
タイルの天井を見上げ、切実に思う。
「どうしてこうなった……」
フラつく身体を起こし、やっとの思いで廊下に出る。クロが短かく鳴く。少し癒された。時計は、丁度午後八時。大して肌寒くないのは、夏だからだろう。寧ろ暑いくらいだ。
寝巻きを着て、クロを抱き上げると、リビングの方からテレビの(笑い声があったから、きっとバラエティー系統の番組)音声が聞こえた。クロが点ける? まさか。目が悪すぎて触る気も起きないだろう。
ということは、空き巣? 普段は夜も使う部屋以外は電気を消しているし、留守と思われても仕方ないが……。
ドアを音を鳴らすことなく開く。恐る恐る、明るいリビングの隙間を覗き込む。ソファは少し距離があり、誰がいるのかわからない。意を決して、ドアを勢いよく開く。と、そこにいたのは……。
「あ、創ちゃん。お風呂出たんだね。ちょうど良かったぁ、テレビ面白くないし、退屈してたんだよね」
ああ、怯えて損したわ。安堵と呆れでクロを落とし、その場に座り込む。
ソファに座っているのは、茶髪でジャージ姿の幼馴染、立白伊月だった。……いや待て、なんで伊月は家に入れたんだ。鍵は閉めていたはずだし、合鍵を渡した覚えなんて無い。
「え、創ちゃん大丈夫!? 具合悪いの!?」
突然座り込んだことに驚いたのか、伊月はテレビを消して俺に駆け寄った。でも、少しありがたい。頭を二度も打ったせいか、テレビの甲高い笑い声や賑やかさは、やけに頭に響いていたから。
「……いや、大丈夫。頭をもう一度打ったくらいだから」
左手を力なく上げて呟くと、伊月は俺の手を掴んだ。
「いや、それ絶対大丈夫じゃないでしょ!」
そうやって心配してくれるあたりは優しいのに、な。
「……それより、なんで伊月が俺の家に居るんだよ。不法侵入で訴えるぞ」
「ああ、それはね……」
俺の腰を持ち、横抱きにされる。え、横抱き? いやどうしてそうなる。待て待ておかしいだろなんで中二にもなって男に横抱きにされなきゃならないんだどうしてこうなった。
「窓、空いてたからだよ」
何事もなかったかの如く俺を抱え、リビングの電気を消して。何の頼りもなしに、自室まで運ばれ、俺はベッドに寝かされてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!