2 ちいき課と看板

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〈野良猫を駆除してほしい〉 という要望が3件ほど入っていた。 いずれもN町からで、電話をかけてきたのは高齢者、30代の主婦、小学生だった。 幸治は午前中いっぱいかけて町を回ったが、猫の姿をまったく見ていない。 昔は野良猫や野良犬があちこちにいたものだが、人間以外で目につく生物といえば、スズメやハト、昆虫くらいである。 (野良猫なんていないじゃないか) 幸治は安堵した。 5月も中旬になると陽が長い。 定時で上がれるサラリーマンがそろそろ帰路につく時分。 幸治は建設課の赤座という女をともなってN町に戻ってきた。 彼女は公園やその周辺の道路を担当する古参で、経験も豊富だ。 仕事でのミスもほとんどしないし、他部署への伝達もスムーズに行う。 事務所からも区民からも評判が良かったから、幸治は彼女に声をかけたのだった。 「すみません、こっちの仕事なのに」 赤座は何度も頭を下げた。 「電話もなかったので問題はないと思ってました。それで巡回も怠っていたようです。完全に私たちの落ち度です」 「いえ、僕のほうこそ。以前から問い合わせがあったのを放置してましたから。すぐに建設課に回していればよかったんですよね」 「定期的に点検して回るように提案しますね」 自分たちのミスであると認めたうえで、いつまでも思い悩んだりしないのが赤座の長所だった。 くよくよするくらいなら、それを反省して次につなげる。 この切り替えの早さと積極性が評価を得ている理由だ。 「ひどいですね……」 着くなり赤座が言った。 しかし彼女は看板を見て言ったのではない。 「朝はこんな状態じゃなかったんですけどね」 幸治は公園内を見回した。 あちらこちらにゴミが散乱していた。 アイスクリームや駄菓子の空き袋がほぼ数メートルおきに落ちている。 それらをまとめて入れていたらしいビニル袋もすべり台の下で揺れていた。
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