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階段を登りかけたところで、菜箸を持ったままなのに気付いた呉谷美子は、ため息をひとつついてキッチンに戻った。
テーブルには焦げだらけの玉子焼きと、冷凍もののコロッケにミニトマトが数個。
おまけのポテトサラダは昨夕、近所のスーパーで買っておいたものだ。
ワンパターンだね、と夫の幸治に言われたことも数知れず。
しかし主婦だって朝は忙しい。
のそのそと起きてきた家族が出かける頃には、簡素ながらも弁当ができあがっていなくてはならない。
衛生面を考えて全てのおかずを加熱して、殺菌防腐のために梅干を用意する。
単純に見えて気を遣うポイントはいくらでもあるのだから、少しくらい評価してほしいと思う美子だが、レパートリーの貧相さを突かれると反論できない。
「ちょっと、ミサキ! いつまで寝てんの!」
起こされるまで起きない娘には毎朝イライラさせられっぱなしだ。
もう中学2年生。早い子はすでに将来を見据えて進学先の選定や受験勉強にとりかかっているというのに、彼女はどこ吹く風といった様子である。
学校での態度はまじめで得意教科も苦手教科もなく、成績も良いとも悪いともいえないから親としても言及しづらい。
焦る美子に担任は、偏りがないのは良いことですよ、と社交辞令で慰めたが、これは光るものは何もないと言われているのと同義だ。
「そろそろ自分で起きるようになりなさい!」
午前7時20分。
今日もいつもどおりの一日だった。
階下でいくら怒鳴ったところで、ミサキの耳には届かない。
このあと、冷ましたおかずを弁当箱に詰め、今度はミサキの部屋に乗り込むことになる。
「行方不明の子、見つかったのか」
そんな母子のやりとりを尻目に、幸治は新聞片手にパンをかじっている。
インターネットではとうに出回っている情報を、半日遅れで入手するのは効率的じゃないとミサキに言われた彼だが、紙のほうが読みやすいからという理由で一蹴している。
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