2 ちいき課と看板

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「じゃあ、いただきましょうか」 3人、テーブルについて手を合わせる。 食事はやむを得ない場合を除き、できるだけ家族そろって――。 それが呉谷家のルールだった。 誰が言いだしたことでもなく、自然とそうなっていたが、おかげで家族間のコミュニケーションがとれている。 旅行の計画や大きな買い物の相談も、食事をしながらだと進みやすい。 「つまずいてる教科はあるか?」 幸治にとってはミサキと接点を持てる貴重な時間でもある。 「体育と音楽かな。他はそこそこって感じ」 「それは……どうにもできないな」 「言うと思った」 彼としてはどうにか父親の威厳を見せたかったが、目論見は失敗に終わった。 「ねえ、あなた、ちょっと……」 美子がおずおずと言ったので、幸治は思わず箸をとめた。 内容次第では小遣いアップを交換条件にしてやろうと思っていたところ、 「――動物嫌いなのは重々承知だけど」 と続き、彼は嫌な予感がした。 「猫、飼っちゃダメかしら……?」 予感は2秒後に的中してしまい、彼は大息した。 「え? 猫飼うの? アメショー? ロシアンブルー?」 まだ何の話もしていないのに、ミサキは身を乗り出した。 行儀が悪いぞ、といつもの幸治なら叱るところだが、今の彼はそれどころではなかった。 「なんで急に……まさか……!」 椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった幸治は、窓に飛びつくようにして外の様子を窺った。 もっぱら物置代わりになっている小さな庭には、ガーデニングをやりかけて放っているプランターが並んでいる。 「拾ってきたのかと思った……」 冷や汗を拭って幸治は席に戻る。 気分なおしにと麦茶を飲んだが、味はまったくしなかった。 猫という言葉を出しただけで、ここまでの反応をされてしまうと、美子も二の句が継げなくなる。 「飼いたいのか?」 無言でいることもばつが悪いと思い、幸治は訊いた。 「まあ、できれば、だけど……無理にとは言わないわ」 「無理……」 幸治は断定口調で言いかけて、 「だと思う」 と、一応の歩み寄りを見せた。
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