3 及川奈緒という女

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「及川奈緒」 彼女は早口で名乗った。 「及川さん、ですね」 訊き直すつもりで美子が言った。 「そう言ってるでしょ」 奈緒は並べていた皿を片付け始めた。 どの子も食欲旺盛で食べ残しはない。 ただ彼らにも好き嫌いはあるようで、安物のフードで満足する子もいれば、スープ状のやや高価なものしか食べない子もいる。 奈緒はそうした好みもよく分かっていて、同じフードを食べさせているように見えて、少しずつ銘柄や配合を変えている。 今日は味にうるさい子が、珍しく何でも食べてくれたので、奈緒は無意識に微笑を浮かべていた。 「明日から容器を持ってきますね。それと小さな箒も……」 もう帰ったものと思っていた美子に言われ、奈緒は慌てて表情を固くした。 「だから勝手にすればいいでしょ」 彼女にとって、邪魔さえされなければ美子はどうでもいい存在だった。 (どうせすぐに飽きるか、面倒くさくなるに決まってる……) 奈緒には確信があった。 興味本位で加わった人間が長続きしたためしはないのだ。
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