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「及川奈緒」
彼女は早口で名乗った。
「及川さん、ですね」
訊き直すつもりで美子が言った。
「そう言ってるでしょ」
奈緒は並べていた皿を片付け始めた。
どの子も食欲旺盛で食べ残しはない。
ただ彼らにも好き嫌いはあるようで、安物のフードで満足する子もいれば、スープ状のやや高価なものしか食べない子もいる。
奈緒はそうした好みもよく分かっていて、同じフードを食べさせているように見えて、少しずつ銘柄や配合を変えている。
今日は味にうるさい子が、珍しく何でも食べてくれたので、奈緒は無意識に微笑を浮かべていた。
「明日から容器を持ってきますね。それと小さな箒も……」
もう帰ったものと思っていた美子に言われ、奈緒は慌てて表情を固くした。
「だから勝手にすればいいでしょ」
彼女にとって、邪魔さえされなければ美子はどうでもいい存在だった。
(どうせすぐに飽きるか、面倒くさくなるに決まってる……)
奈緒には確信があった。
興味本位で加わった人間が長続きしたためしはないのだ。
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