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「そりゃそうだけどさ……」
と渋る相田をよそに、光はじっとやりとりを眺めている。
連絡を受けた市の衛生局員が、金属製の箱を持って来た。
「ちょっと離れて」
徐々に包囲網を狭めていた子どもたちを押しのけ、問題の茂みの前にシートを広げる。
警官に目配せしてから、それをゆっくりと引きずり出した。
頭部と胴体をできるだけ離さないように動かしたのは、局員のせめてもの配慮だったのだろう。
しかし姿勢を崩せばそのふたつは、あるハズのない距離を隔てて向かい合う。
「これはひどいな……」
局員の呟きは後ろにいた子どもにも聞こえた。
猫とはいえ惨殺された死骸である。
それを見せまいと警官たちは目隠しするように立ちはだかった。
が、その一瞬の間を縫って内出光は見た。
警官の足の隙間から覗いた、首を切断された猫。
血液は凝固していて、赤とも黒ともつかない液体が切断面を覆っている。
視力の良い光にはそこまで見てとれた。
頭部は後ろに向けていたので、どんな顔だったのかまでは分からなかったが、それは彼女にはどうでもいいことだった。
「な、もういいだろ? そろそろ行こうぜ」
相田に肩を叩かれ、光は思い出したように振り返った。
光は笑っていた。
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