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特に彼女や彼女のオフィスになにか変わりがあったわけではない。単に先日のチーズケーキのお返しに、手土産をもっていかねば。 そう思ってぼくは、訪問を明日に控えた今、渋谷の某デパートの銘店街に立っている。 もちろんここに来るまでに、どこか個人店でいいところはないかとネットで調べはした。やはりデパートの品よりも、個人でやっている、そこにしかない品の方が、手みやげとしてのパンチ力は上だ。 その点で彼女のチーズケーキはかなりの破壊力を持っている。 「中目黒の」しかも「老舗の」そのうえ「チーズケーキ」と来た。 自分が選ぶ段になって改めて、かなり難易度の高い技を彼女は決めてきたなと実感する。 「渋谷の」「デパートの」と並んでしまった時点で、すでに破壊力は数段落ちる。 しかし今回の目的は、彼女の品を「上回る」ことではない。 彼女のチーズケーキよりも「特別」で「貴重」で「おしゃれ」な品を探すことではない。 破壊力という点では「並」でいい。ただ、通り一遍のもの、つまり「万人が好き」というものよりも、少しだけ「彼女が好きそう」に寄せられればいいのだ。それで今回のミッションは成功だ。 もちろん、だからといってあまり彼女に寄せすぎてはいけない。あくまで会社から会社への手みやげなのだ。ぼくが私情で持っていくものではない。ぼくから彼女への私的なプレゼント、と取られてしまったらアウトだ。つまり、「気がある」と思われてしまった時点で、仕事的にはアウトなのである(実際にぼくが彼女に気があるかどうかはさておきだ。) そういう意味で、あえて破壊力を上げないためにも、個人店ではなくデパートという選択は結果的にアリだとぼくは踏んだ。大丈夫、時間はまだたっぷりある。銘店街の方も、お店をたくさん用意してぼくを待ち受けている。ここをじっくりまわって品を定めよう。
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