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中村君はいつも一人で本を読んでいた。私たちの高校生活も残り半年を切ったというのに、彼が誰かと行動しているところなんて見たことがない。
しかも、読んでいる本も小説とか漫画とかじゃなくて「三十歳までに成功する方法」とか「人間の行動心理」とかそんな本ばかりだったのだ。
中性的で可愛らしい顔立ちの彼は入学当初こそ様々な女子が話しかけていたが、その顔立ちからは想像できないほどの無愛想な対応のせいで、ひと月もたたないうちに孤立するようになっていた。
せっかくの花の高校生活だというのに、彼は何をしに学校に来ているのかと不思議だったし、もったいないなと思っていた。
もう少し愛想よくできればあの顔立ちなのだから学校の中心人物にだったなれそうなものなのに。
羨ましさを通り越して恨めしささえ感じてしまう。
「綾乃、何見ているの?」
ぼうっと彼を眺めていると、友だちの弘美が私の視線の先を見つめた。
「って中村じゃん。何、綾乃、中村のこと好きなの?」
「ち、違うよ。何言ってんのよ。ただ、中村君は相変わらず一人なんだなって思って見ていただけよ。それに弘美、私の好きな人知っているでしょ?」
「ははっ、ちゃんと分かってるって。そんなことよりさ、綾乃にお願いがあるんだけどさ」
彼女はそう言って顔の前で両手を拝むように合わせた。
高校に入って二年半の付き合いの彼女から、今まで幾度となく見せられてきたそのしぐさに私の心は反射的に固まる。
「お願いって?」
極力彼女に自分の心の内を悟られないように笑顔を作る。
「いやさ、今日部活の集まりがあるの忘れててさ。昼休みの図書委員の仕事代わってくれないかなって」
またか。と思った。
週に一度図書委員としてカウンター当番をしなければいけないのを彼女は代わってくれと言っているのだ。
「また? もう……しょうがないなあ。次はちゃんと行ってよ?」
私の返事を聞いて彼女は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう! この借りはちゃんと返すからね!」
そう言って彼女は嬉しそうに自分の席へと戻っていったのだった。
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