廃墟突入の心得

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 10  目がしょぼしょぼする。もちろん原因は昨夜の心霊現象だ。  廃墟特集を見た後、僕は深呼吸をして体を落ち着かせた。興奮したままだと眠れない。少しでも心霊現象を体験する時間を短くしたかったのが理由だ。  キッチンの物に取り憑いていれば良かったのだが、事はそう上手くいかない。当たり前のように声を発する赤子の霊。また少し成長したのか、今度は何かを引きずる音が聞こえてきた。朝になって確認すると、引きずっていたのは昨日まで着ていた僕の上着。霊が触れた服だ、これはもう捨ててしまおう。  はぁ……と溜息をついてゴミ袋に服を入れる。数年前に買った服だから良いが、新品だったら一週間は立ち直れなかっただろう。今度から床に物を置くのはよそう。  ともかく、キッチンにある物には憑いていないことがわかった。次はリビングだ。引っ越す前の家だったら僕や好美の趣味の物でいっぱいだったが、今はしっかり整理整頓されている。これなら楽にすべて外に出せる。  手をつけるのは早くて明日。今日は寝不足だから好美の実家に帰ってゆっくり休む。キッチンの物に取り憑いていないのは残念だったが、今は心霊現象の根本的な原因を見つけられそうなので、気持ちはだいぶ軽い。  物置にあるキッチン道具を家の中に入れて、出勤するために車に乗る。ああ、早く五郎さんに廃墟について知りたい。  いつもより早めの出勤は車や人が少ない。駐車はスムーズ、着替えは腕を伸ばしても大丈夫。これなら毎日早く来ても良いかもしれない。
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