廃墟突入の心得

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「あれ、今日は早いじゃないか」 「五郎さんに聞きたいことがあって早く来たんです」 「俺に?」  僕は基本的に五郎さんより遅くに出社することが多いから、驚かれるのは当然の反応だ。 「昨日の廃墟特集を見ましたか?」 「ああ、あれね! 良い番組だったよなぁ。特に最後の廃墟はぜひとも行ってみたいね」 「ええと、その最後の特集の前に、日本各地の廃墟ってコーナーがありましたよね。そこに僕が貰った例のガラガラが転がっていたんです」 「おや、そうなのか。でも、ガラガラが同じだからなんだって言うんだ?」 「倒産しても中が片付けられていない廃墟……そこに霊が住み着いて、残されていたおもちゃに取り憑いたのではと思いまして」 「もしかして調査に行きたいのかい」 「はい。それで、廃墟に行くので何か気を付けることはないかと聞きたくて……」 「なるほどな。廃墟探索のレクチャーを受けたいわけだ。じゃあ仕事が終わった後で大丈夫か? 飲みながら必要な準備を教えよう」  止めることなく教えてくれるのはありがたい。しかし、五郎さんは廃墟内には入らないと言っていたが、本当にそうなのだろうか。実は若い頃に入った経験があるのでは?  まあ、五郎さんは人に対して深入りすることはないし、それに習って僕も聞かないでおこう。必要であれば話してくれるだろう。 「ありがとうございます。あ、でもちょっと寝不足なので途中で寝るかもしれません」 「よし、布団も用意しておこう。奥さんには連絡しておくんだぞ」 「はい」  五郎さんの許可を頂いたところで、作業用の靴を持って出入口へ向かう。今日の勤務は気合を入れて乗り越えなければならない。体はつらいけど、ここを乗り越えられれば平穏に一歩近づくのだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加