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「あれ、今日は早いじゃないか」
「五郎さんに聞きたいことがあって早く来たんです」
「俺に?」
僕は基本的に五郎さんより遅くに出社することが多いから、驚かれるのは当然の反応だ。
「昨日の廃墟特集を見ましたか?」
「ああ、あれね! 良い番組だったよなぁ。特に最後の廃墟はぜひとも行ってみたいね」
「ええと、その最後の特集の前に、日本各地の廃墟ってコーナーがありましたよね。そこに僕が貰った例のガラガラが転がっていたんです」
「おや、そうなのか。でも、ガラガラが同じだからなんだって言うんだ?」
「倒産しても中が片付けられていない廃墟……そこに霊が住み着いて、残されていたおもちゃに取り憑いたのではと思いまして」
「もしかして調査に行きたいのかい」
「はい。それで、廃墟に行くので何か気を付けることはないかと聞きたくて……」
「なるほどな。廃墟探索のレクチャーを受けたいわけだ。じゃあ仕事が終わった後で大丈夫か? 飲みながら必要な準備を教えよう」
止めることなく教えてくれるのはありがたい。しかし、五郎さんは廃墟内には入らないと言っていたが、本当にそうなのだろうか。実は若い頃に入った経験があるのでは?
まあ、五郎さんは人に対して深入りすることはないし、それに習って僕も聞かないでおこう。必要であれば話してくれるだろう。
「ありがとうございます。あ、でもちょっと寝不足なので途中で寝るかもしれません」
「よし、布団も用意しておこう。奥さんには連絡しておくんだぞ」
「はい」
五郎さんの許可を頂いたところで、作業用の靴を持って出入口へ向かう。今日の勤務は気合を入れて乗り越えなければならない。体はつらいけど、ここを乗り越えられれば平穏に一歩近づくのだ。
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