第1章 お妃の鏡

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Once upon a time・・・むかしむかし、あるところに・・・ 「はぃほ~、はぃほ~、ラ・ラ~ンラ・ランランラン!」 マルガ姫は14才、気持ちのいい春の朝、テラスのカナリヤに餌をあげてお部屋に戻るところ。姫は、小鳥や動物が大好き、優しくて誰からも愛される、それはそれは可愛らしい少女でした。 (お継母(かあ)さまのお部屋のドアが開いてるわ) 姫はドアの隙間からそっと継母の部屋を覗き込みました。  実の母が亡くなってしばらくして、父ヴィルドゥンゲル伯は、後妻カタリナを迎えました。カタリナ妃は、まだ24才。すらっと背が高く、ウエストは蜂のようにくびれています。腰に届く豊かなブロンド、大きな青い瞳、小さく尖った鼻とバラの花びらのような唇。手足はまるで象牙でできているよう。つまり、ものすごい美人でした。    マルガ姫が、少しだけ開いたドアの隙間から継母の部屋の中を覗いてみると、そこには天蓋付きの大きなウォルナットのベッドが見えました。レースのフリル飾りのシーツは少し乱れています。壁には大きな肖像画、実家のフォン・ハッツフェルト家のご先祖が、甲冑を身につけ真っ白な馬に颯爽と乗っている姿が、勇ましく描かれています。  その横には大きな姿見がありました。カタリナ妃は薄いシルクの寝間着のまま、くるっくるっと左右にターンしてその美しい体を映しています。束ねていないブロンドが、その度にふわふわ揺れています。 (まあ、きれい!完璧なプロポーションだわ・・・) マルガ姫はうっとりと見とれてしまいます。 (私も、あんなおっきな鏡が欲しいな・・・) カタリナ妃は動きを止めると、鏡にまっすぐ向かって語りかけました。 「シュピーゲル(鏡よ)シュピーゲル()」 マルガ姫はぷっと吹き出してしまい、慌てて口元をおさえます。 (お継母(かあ)さまったら、鏡に話しかけて!大丈夫かしら?) すると、鏡の中に、執事のような装いの男性が現れたのです。 (えっ?) マルガ姫は大きな目をさらに大きく見開きました。部屋の中にいるのは継母カタリナ妃ただひとり、鏡に映りこむような男性の影はありません。しかも、鏡の男はバリトンの低音でうやうやしく返事をしたのです。 「お妃さま、なんでしょうか」
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