第1章 お妃の鏡

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シュピーゲル(鏡よ)、国中で一番美しいのは誰?」 シュピーゲルと語りかけられた鏡の中の男は答えました。 「もちろん、お妃さまにございます。いやいやいや、お妃さまは、いつみてもお美しい。えっ?それはお寝間着ですか?お妃さまが着てらっしゃるとお寝間着がまるで舞踏会のドレス!お妃さまの前ではクレオパトラもヘレナも、アフロディーテでさえも、ただの乾いた干し草でできたかかしに見えちゃいます。ああ、いつまでも映していたい。鏡冥利(みょうり)に尽きるとはこのことでございます」 バリトンだった声はだんだん高くなってファルセット(うらごえ)になっていました。マルガ姫は驚き、そして同時に(あき)れました。 (何?この鏡、太鼓持ち?) 一方、継母カタリナ妃はまんざらでもないご様子。 「あ~ら、それほどでもありませんことよ。オホホホ」  マルガ姫はそっとドアを離れると、自分の部屋に戻りました。 (わたしだって・・・わたしだって、けっこうかわいいもん!) でも姫は14才、成熟した大人のオーラ絶賛放出中のカタリナ妃に比べれば、まだまだちんちくりんの子供にすぎません。そして、姫のお部屋にはそもそも鏡がありませんでした。 (わたしも鏡が欲しい!美しさではお継母(かあ)さまにはかなわなくても、この国でだいたい何番目かくらいは知りたいわ) マルガ姫は部屋を飛び出すと父ヴィルドゥンゲル伯の部屋に走って行きました。 「お父さま~!お父さま~!」 目の中に直接入れても全然痛くない可愛い娘の上目づかいのお願いに、父伯は敢え無く撃沈。高価な鏡を買ってあげることを約束したのでした。  それからというもの、マルガ姫がとってもお利口さんにふるまったのは言うまでもありません。灰だらけになってかまどを掃除し、夜はマッチを売りました。そして、数日後の朝、姫が目を覚ますと、書き物机の上に綺麗な紙に包まれた四角い箱がありました。箱には手紙が添えてあります。 『可愛い我が娘マルガレーテへ。おまえはまだ子供だから手鏡にしました。姿見は大人になったら買ってあげます。パパより』 「え~、姿見がよかった~」 予算の問題もありますが、顔は可愛くても、まだちんちくりんでAカップ、幼児体型の姫をがっかりさせないよう、父伯の優しさだったのかもしれません。手紙には続きがありました。 『追伸 機能は同等です』
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