サクラの季節

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サクラの季節

今日は絶好の卒業式日和だ。  爽やかな風が吹き始める季節。雲ひとつない空に、穏やかな日差し。  今日、私たちは3年間学んだ高校を旅立つ。3年間を過ごした校舎、仲間、人によってはこの土地ともお別れとなってしまう。 「鈴木サクラさん。」 先生から名前を呼ばれる。教卓の前に進み、卒業祝いのハンコを受け取る。自分の席に戻るときに、クラスメイトの1人が「ホントにいるのかなぁ。」とうしろの席の生徒と話している。  私たちの学校には怪談がある。とある生徒が、卒業することなく3年生を繰り返しているというものだ。  先生や同級生などの周囲の人は、そのことに気付かずに一緒に生活を送る。卒業していった生徒や転任した先生は、その生徒の存在を忘れてしまう。  ……という、馬鹿馬鹿しい怪談だ。あまりにも非現実的すぎる。恐らく、過去に何度も留年した先輩がいて、その噂に尾ひれがついたのだろう。  卒業祝いを渡し終えると、先生はコホンと咳をついて私たちを見回す。その眼は一人一人の成長と、これからの門出を祝うかのようだった。 「みなさん、今日までよく頑張ってきました。これからはそれぞれの道を歩んでいくことでしょう。」 先生は、いつも以上に澄んだ声で告げる。 「この3年間が君たちの財産とな――  ――るように、この1年間充実したものにしていきましょう。」 先生のあいさつが終わった。高校最後の1年間、悔いなく過ごしていこう。  爽やかな風が吹き始める季節。雲ひとつない空に、穏やかな日差し。 今日は絶好の始業式日和だ。
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