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 何世代もの交配を繰り返し、現代の社会を形成しているのは人間と獣人の<混血種>となった。だが、人間と獣人の交配がなぜうまくいったのか、遺伝子の変質や抗体など、解き明かされていないことはいまだに多い。俺が所属する研究室ではそれを<形態進化>と呼び、日々研究に取り組んでいる。 「あ、榊さん。おはようございます」  灰谷が端末を手にこちらへ向かってくる。音もなく滑らかに歩く姿は、彼に発現したチーターの遺伝子を容易にイメージさせる。 「特に変わったことはないか?」  ちょうどガラス窓の前で立ち止まった。部屋の隅で、白い獣は相変わらず身体を丸めている。 「ええ。とりあえず、榊さんがいなくても食事と水分補給はしてくれるようになりました。もちろん触らせてはもらえませんけど」  灰谷は本当に残念に思っているらしい。生きた状態で完全に獣化した者に触れる機会など、そうあることではないからだ。  そのとき、背後の空気が重く揺れ、ゆっくりと地を踏みしめて近づく存在に気がついた。 「榊」 「おはようございます、蔦川(つたがわ)室長」  大きな体躯から溢れだすエネルギーを隠そうともしない、威厳のある立ち姿だ。無意識に、かかとにぐっと力が入る。迫ってくる上司の圧力から身を引きたくはない。 「彼の状態は」  蔦川は後ろに手を回し、胸をそらしながら中にいるオメガを見遣った。     
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