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「……遺伝子検査の結果、劣性遺伝子のホモ化は見られませんでした。近親交配が原因となるような症状は発現していません。おそらく生殖には問題ないでしょう。今のところ健康状態も安定しています」
求めている答えを与えることができたのだろう。蔦川は満足気にうなずいた。
「午後からの定例会議でいくつか提案したい案件がある。忘れずに参加するように」
来るのも突然であれば、去っていくのもあっという間だった。蔦川から放たれた強いアルファの匂いが残っているのは気のせいだろうか。俺は自分でもはっきりとわかるくらいに顔をしかめていた。
「心配っすか?」
「……なにがだ」
灰谷の存在を忘れていたわけではないが、急に声をかけられて一瞬答えに詰まる。
「榊さん、母犬かってくらい甲斐甲斐しく世話してるじゃないですか」
「母犬?」
「いや、たとえですよ! っていうか、あの榊さんがあまりにも熱心に世話を焼いているって、女性スタッフがみんなやきもきしていてそういう話に……」
両手を胸の前でぱっと広げ、しどろもどろに言い訳をする。あまりにも早い「降参」のポーズに思わず笑みがこぼれた。彼女たちがいったいどんな話をしているのか聞いたことはないが、灰谷は女性たちの集いによく召喚されているから、あることないことを吹き込まれているのかもしれない。
「でも」とふいに灰谷が声を落とす。
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