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 昨日は初めてまともに彼の身体に触れ、首元に小さなセンサーを貼りつけることに成功した。そのときに、まだ汚れたままの身体がひどく気になったのだ。  催眠薬やガスで眠らせれば、その間に検査や清掃を全て処理することは可能だと提案する研究員もいる。だが、薬の量を誤れば貴重な存在を失う可能性も高いだけでなく、薬を使ったという事実によって、彼の信頼を二度と得ることができなくなることを俺は危惧していた。  袖を捲り上げ、新しく買った大きめのタオルを湯に浸す。彼の視線が、まだ俺のほうに向いているのはわかっているが、あえて視線は合わさない。親しくない間柄で正面から視線を合わせるのは、攻撃や威嚇と捉えられる。  タオルを絞る手が赤くなる。少し熱いくらいが気持ちいいのではないかと思ったが、熱すぎただろうか。一度広げてたたみ、彼の顔の近くに手を伸ばす。こうして匂いで危険がないことを知ってもらう。彼は鼻を二、三度うごめかし、ついと顎を横に逸らした。わかりにくいが、これは許可のサインだ。 「熱かったら言ってくれ。首のあたりから拭いていく」  まずはセンサーの取り付け時に一度触れた場所から始め、ゆっくりと範囲を広げていく。耳の後ろを入念にこすると、彼はわずかに目を細めた。     
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