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「ええ。保護時点での検査データのみですが、生殖器は充分に成熟していることを確認しています。ですが、発情期を迎えたオメガが匂いを放出するとされるフェロモン腺が、発達していないようなんです。おそらく、まだ卵細胞を採取することは難しいのではないかと。それに――」 「まだなにかあるのか」 「その試験、国の認可は下りているんです?」  背の高い蔦川を、灰谷は顎を引いたまま視線だけで見上げている。ややつり目な灰谷のその仕草は充分に挑発的だ。それでも蔦川は意に介したようすもなく鼻を鳴らす。 「昨日のうちに省庁への根回しは済ませてある」 「まさか」 「それほど喫緊の課題ということだ。かつて<人間>が人口減少と近交退化の悪循環に陥ったことは、混血種となった我々にとっても他人事ではない。我々獣人の種の保存だけでなく食糧問題にも関わっているということは君たちも承知しているだろう」  近い血縁での交配によって、遺伝子に異常が現れる確率は格段に上がる。人口が激減したと同時に、この「近交退化」という現象が表面化するようになった。異常とひとくくりに言っても、その症状はさまざまだ。だが短命であることは、ほぼすべてのケースで共通してる。生殖機能に問題をもつ個体も多い。獣人に限らず、その他の動植物も同じだ。     
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